難聴とは、何らかの原因によって、音が聞こえない・聞こえにくい状態のことで、高齢者だけでなく、若い人にも起こりうる病気です。
難聴は放置すると、聞こえが戻らない可能性が高くなるので、異変を感じたらできるだけ早期に受診して、適正な治療をすることが大切です。
特に突発性難聴の場合、発症から48時間以内(遅くとも1週間以内)の治療開始が、聴力回復のポイントとなります。
治療で聞こえが完全に回復しない場合や治療が難しい加齢による難聴の場合でも、補聴器を使用して聞こえを補うことで、生活の質(QOL)の改善が期待できます。
日常生活に大きな支障がなくても、聞こえの低下・耳鳴りめまいなど気になる症状がある場合は、できるだけ早くご来院ください。
難聴の検査
耳鼻咽喉科では、次のような検査を行って難聴のタイプや原因などを調べます。
① 医師の問診や視診
発症している耳はどちらか、発症時期などの自覚症状、耳鳴り・耳閉感(耳が詰まる感じ)・痛み・めまいなど合併症状についても、詳しくお伺いします。
また、鼓膜の状態だけでなく、ウイルス感染が疑われる場合には鼻・口に炎症が起こっていないか、内視鏡(ファイバー)や顕微鏡を使って、丁寧に確認します。
② 標準純音聴力検査
聞こえを調べる基本の検査です。
防音室で患者さんにヘッドホンをつけてもらい、オージオメーターと呼ばれる機械で音を出し、どのくらい小さい音まで聞こえているのかを確認し、難聴のタイプや程度を調べます。検査時間は約15分です。
③ 語音聴力検査
言葉(音)を流し、オージオメーターのヘッドホンから聞こえる言葉を発音または紙に書いて、言葉の聞き取りやすさを調べる検査です。
突発性難聴や加齢性難聴など感音性難聴と呼ばれる難聴の場合、大きな音で流しても100%聞き取れないことがあります。補聴器の適応や調整の参考にもなる検査です。
そのほか、必要に応じて次のような検査を行うこともあります。
- ティンパノメトリー検査
滲出性中耳炎が疑われる場合など、鼓膜の動きを調べる検査。 - 耳小骨筋(アブミ骨筋)反射検査
大きな音が入ると、内耳を守る働きをするアブミ骨の働きを利用して、音が聞こえているかを調べる検査。 - 平衡機能検査
めまい・ふらつきが見られる場合に行う検査。 - MRI・CT検査
突発性難聴と同じような症状が現れる「聴神経腫瘍」を調べるために頭部MRI検査を行うことがあります。
※MRIおよびCT検査が必要となる場合には、対応病院をご紹介します。
難聴のタイプ
難聴といっても、引き起こされる原因から3つのタイプに分けられます。
伝音性難聴(でんおんせいなんちょう)
音を集めて増幅させる器官(外耳~中耳)の障害が原因で、音が正しく伝わらないことによる難聴です。薬物療法や手術で聴力の回復が期待できます。
中耳炎、外耳炎、鼓膜穿孔(穴が開いた状態)、耳垢栓塞(耳垢が溜まり詰まる状態)などが発症のきっかけとなります。
感音性難聴(かんおんせいなんちょう)
音の振動を電気信号に変換、脳に伝達するまでの器官(内耳)や神経経路の障害が原因となり、音自体をうまく感じ取れない難聴です。
治療法が確立していないため、聴力の回復が困難なケースもあります。
代表的な疾患:突発性難聴、加齢性難聴、騒音性難聴、先天性難聴など
混合性難聴(こんごうせいなんちょう)
伝音性難聴と感音性難聴が合併した難聴です。症状の出方には個人差があり、症状に応じた治療を行います。
注意したい難聴①「突発性難聴」
厚生労働省難聴調査研究班の報告(2001年)*1によると、突発性難聴の推定患者数は約3万5千人で、約10年前と比べ1.5倍増加しています。
近年は若者から高齢者まで罹患する疾患ですが、中でも40~60代の働き盛りに多い疾患です。聞こえにくくなってから48時間以内の治療開始が、聴力回復のポイントです。
*1(参考)2001年発症の突発性難聴全国疫学調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology1968/47/2/47_2_109/_pdf
突発性難聴の症状・原因
突発性難聴は、耳が聞こえなくなる症状が突然現れるため、「いつから聞こえなくなった」と自分で分かるという特徴があります。
難聴は片耳だけに起こることが多く、難聴の前後に耳鳴り・耳の閉そく感やめまいを伴うこともあります。
また、突発性難聴の場合、聞こえが悪化したり、治ったりといった症状の波はありません。(※症状の波がある場合には、別の疾患が疑われます)
突発性難聴の原因は不明で、今のところ、内耳への血流障害説、ウイルス感染説などが有力のほか、糖尿病やストレス・過労・睡眠不足が発症に影響を及ぼすとする調査結果も示されています。
突発性難聴の治療
突発性難聴の治療では、副腎皮質ステロイド剤(内服・点滴)を中心に、血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)、ビタミンB12、代謝促進薬(ATP製剤)など、薬物療法を行います。
突発性難聴の治療は「時間との戦い」です。
発症後48時間以内に治療を開始した場合、聴力回復は約50%であり、改善した方を含めると約2/3に上ったとする結果*2が報告されており、治療開始が早ければ早い程、治療により聴力が改善する傾向にあり、遅くとも発症1週間以内の受診が望まれます。
難聴症状を1か月ほど放置すると、聴力が固定され、治療をしても難聴が残ってしまう可能性が高まります。
*2(参考)突発性難聴の治療成績
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirinsuppl1986/1992/Supplement60/1992_9/_pdf
注意したい難聴②「加齢性難聴」
老人性難聴とも呼ばれ、誰にでも起こる老化現象の一つです。
日本耳鼻咽喉科学会では、65歳以上の約1/3、75歳以上では約半数の方が難聴を感じていると報告しています。
加齢性難聴の症状・原因
加齢による聴力の衰えは、実は40代から始まります。
最初は高い音のみが聞き取りにくくなるので、加齢性難聴に気付かないことも多いのですが、数年単位で徐々に聞き取れない音域は広がっていきます。
また加齢性難聴は、内耳にある音を感じる有毛細胞や脳に音を伝える神経経路に障害が起きること以外にも、脳の認知機能の低下も影響しているなど、様々な要因が絡み合って発症します。
加齢性難聴の治療
加齢による有毛細胞の損傷は「老化現象」ですので、現状、根本的な治療法がありません。
しかし、加齢以外の難聴原因を避ける予防対策(大きな音を避けるなど)を取ることで、進行を遅らせることは可能です。
また、できるだけ早く補聴器などの人工聴覚機器を利用して、聴力を補うことで、生活の質の改善や認知機能の保持ができる*3と報告されています。
ただし、補聴器は内耳の働きが残っている場合のみ有効なため、重度の難聴により両耳の聴力がほとんどない場合には、人工内耳を装着する手術を検討することもあります。
*3(参考)難聴は認知症の最大の原因になる!?|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
http://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/001/
よくあるご質問
1)「難聴」は予防できますか?
聴力の低下を防ぐ完全な方法はありませんが、次のような耳に優しい生活を心がけることで難聴予防に繋がります。
・大きな音量で音楽・テレビなどを聴かない
・騒音のある環境下では耳栓を使用する
・静かな場所で耳を休ませる
また、突発性難聴など急性難聴の場合、ストレスや過労がきっかけで発症することが多いため、栄養バランスの取れた食事・規則正しい睡眠・適度な運動など、日頃から体調を整えておくことは大切です。
2)難聴予防に効果のある栄養素はありますか?
栄養バランスの良い食事を摂ることが基本ですが、中でも末梢神経の修復を助ける「ビタミンB12」を積極的に摂ることをおすすめします。
ビタミンB12は、レバーやアサリ、シジミ、サンマなど豊富に含まれています。
また、市販のビタミン剤などで補っても良いでしょう。
3)高齢で聞こえが悪くなっても、補聴器を付ければ、また聞こえますよね?
「高齢者の難聴=補聴器」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、補聴器は耳に付ければ、誰でもすぐに聞こえるようになるものではありません。
補聴器は、聞こえを取り戻す機器ではなく、「聞こえを補助する医療機器」です。
したがって、内耳の聴力機能が残っていないと使えません。
さらに、難聴の感じ方には個人差があるので、使用前・使用中も適宜その人に合った調整が必要となります。
また、加齢だけが難聴原因と思っていても、中耳炎など別の疾患が難聴をより進行させている場合もよくあります。
聞こえにくさを感じたら、「年齢的に仕方ない」とは思わずに、まずはお気軽に「聞こえの検査」にいらしてください。