急性扁桃炎(きゅうせいへんとうえん)は、舌の付け根の左右にある扁桃(口蓋扁桃:こうがいへんとう)にウイルスや細菌が感染し炎症を起こすことにより、高熱・赤く腫れる・喉の痛みなどを引き起こす病気です。
風邪と同じように関節痛や寒気などが現れますが、風邪よりも「喉の痛みが強い」という特徴を持ち、扁桃の炎症がひどくなると、白く膿を持ち、痛みで食事が摂れなくなる場合もあります。
扁桃炎の原因となる病原体で注意したいのが、「溶連菌(ようれんきん)」です。
お子さんに多く、主に保菌者の咳・くしゃみなどに含まれる菌を吸い込むことで感染します。
適切な薬物治療を行うことで、喉の痛みなどの症状は速やかに治まりますが、診断・治療が遅くなると、リウマチ熱や急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅうたいじんえん)などの合併症を起こしやすいので、できるだけ早く治療を開始し、しっかり最後まで治療することが必要です。
「喉が赤く腫れている」「喉の痛みが強い」「高熱が出ている」場合には、早めにご来院ください。
急性扁桃炎の症状は?
急性扁桃炎を発症すると、以下のような症状が現れます。
- 38~40℃の高熱
- 喉の腫れと痛み
※飲み込む時の痛みが初期よりも増す - 首のリンパ節の腫れ
- 耳の痛み
- 頭痛、関節痛
- 倦怠感
- 扁桃に白い斑点のような膿が付着する
- いちご舌(舌に真っ赤なブツブツが出る)
- 赤い発疹
溶連菌感染が原因の場合、2~5日の潜伏期間の後、ひどい喉の痛みや発熱に続いて舌にイチゴのような赤いブツブツ、体にかゆみのある小さい発疹が現れます。
急性扁桃炎の初期症状は風邪症状に似ているので、悪化するまで気付かないことがほとんどですが、いつもより喉の痛みが強い場合には急性扁桃炎の疑いがあります。
早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
急性扁桃炎の原因と感染経路
急性扁桃炎の原因
扁桃は「扁桃腺」とも呼ばれるアーモンド形をしたリンパ組織で、通常は口の中に入ってきたウイルスや細菌などの病原体から身体を守る免疫機能を持っています。
しかし、風邪やストレス・過労などで抵抗力が落ちて、病原体の感染力が免疫力を上回ると、
病原体が扁桃で増殖して、「急性扁桃炎」を発症します。
原因となる病原体には、溶連菌・ブドウ球菌・インフルエンザ菌・肺炎球菌などの細菌や、アデノウイルス・EBウイルス・単純ヘルペスウイルスなど様々あります。
原因菌の中でも特に注意したいのが、溶連菌と呼ばれる「A群β溶血性レンサ球菌」です。感染は9歳頃までの幼児・学童期に多いのですが、抵抗力の落ちている大人にも感染します。
扁桃炎のほかにも、溶連菌は、中耳炎や肺炎、髄膜炎、伝染性膿痂疹(通称:とびひ)など、さまざまな症状の原因となります。
急性扁桃炎の感染経路
急性扁桃炎の主な感染経路は、保菌者の咳やくしゃみなどに含まれる菌を吸ってしまうことによる「飛沫感染(ひまつかんせん)」です。
ほかにも、ドアノブ・手すりなど菌の付いた物を触った手で口や鼻を触って感染する「接触感染」、手に付いた菌が調理中の食品に付いてしまい、その食品を口に入れることで感染する「経口感染」もあります。
急性扁桃炎の検査と診断法
急性扁桃炎は、高熱や扁桃の腫れなど特徴的な症状を問診・視診から確認して診断します。
さらに、原因がウイルスなのか、細菌なのかを調べるため、血液検査を行うことがあります。
① 問診・視診・触診
自覚症状のほか、扁桃の炎症を繰り返していないか、扁桃の炎症で他の部位がひどくなっていないかなど詳しくお伺いします。
また、喉の炎症状態の視診や首のリンパ節の触診を行います。
② 溶連菌迅速検査
患者さんの年齢や症状などから、溶連菌感染が疑われる場合に行います。
綿棒で喉をこすって調べることができ、5分程度で検査結果が判明します。
※「クイックナビ−StrepA2」という検査機器を使用しています。
③ 血液検査
白血球の増加や炎症の程度をみるCRP値などを確認します。
④ 細菌培養検査
綿棒で扁桃をぬぐった液を培養して細菌の種類を調べます。
症状が長引いている場合など、細菌の種類を特定し、効果のある抗生物質を調べる目的で行います。
急性扁桃炎の治療
急性扁桃炎の治療では、薬で喉の痛みや高熱を抑える対症療法を行います。
原因菌がウイルスか細菌かにより、治療の内容が若干異なります。
- 喉の消毒
- 消炎鎮痛剤
- 抗生物質の服用(ペニシリン系、セフェム系)
※原因が「細菌」のみ使用。症状が重い時は点滴で行う場合もある。
消炎鎮痛剤は、基本的に内服薬での処方ですが、熱が高い時や喉の痛みが強い時など薬の服用が難しい場合には、坐薬を処方することもあります。
また、抗生物質は溶連菌など細菌に対してのみ使用し、ウイルスが原因の場合には使用しません。
抗生物質を服用すると、約3~4日でつらい症状は和らぎますが、体の中ではまだ細菌は死滅しておらず、体内に残っています。
途中で服用を止めてしまうと、治ってから2~3週間後に心臓弁膜症の原因となりうる「リウマチ熱」や血尿・むくみが現れる「急性糸球体腎炎」などの合併症を引き起こす可能性があります。処方された抗生物質は、最後までしっかり飲みきりましょう。
よくあるご質問
1)溶連菌による急性扁桃炎は、子どもの病気ですか?
いいえ。子どもから大人までかかります。
小学生くらいまでのお子さんの免疫機能はまだ発達途中なので、扁桃の免疫に頼る割合が高く、大人よりも溶連菌に感染しやすいのですが、大人でも過労やストレス、睡眠不足など抵抗力が弱まっている時などには感染しやすくなります。
また、3歳以下の小さなお子さんや大人の場合は扁桃が腫れる、頭痛などの症状のみで、高熱が出ない場合もあります。
2)溶連菌感染を予防する方法はありますか?
溶連菌を予防するワクチンは、まだありません。
風邪など他の感染症と同様に、免疫力低下や喉の乾燥を防ぐような予防対策を行いましょう。
- こまめにうがいや手洗いを行う
- 加湿器などを使い、部屋を40~70%に保つ
- 十分な睡眠を取る
- タバコを控える
- 人混みを避ける
- こまめに水分を摂る
- マスクをする
また、溶連菌に感染した方が家族にいる場合、兄弟・姉妹、親子でうつしてしまうケースが多いので、感染力が特に強い急性期(抗菌薬の服用後約24時間以内)は念のため一緒に遊ぶのを控えたり、おもちゃ・タオルの共用なども避けたりした方がよいでしょう。
もし感染した場合には、さらに周囲に感染を広げないようにする配慮も大切です。
3)一年に何回も急性扁桃炎になってしまうのですが……。
一年に4~5回以上、急性扁桃炎を繰り返す場合「慢性扁桃炎」の疑いがあります。
慢性扁桃炎になると、薬物療法では改善されないことが多く、日常生活への影響も多くなるため、扁桃を取り除く手術が必要となります。
お子さんの場合、免疫機能を扁桃に頼っている部分があるため、お子さんの手術については十分に検討することが必要です。
しかし、身体全体の免疫機能が完成する中学生以上であれば、扁桃の役割はほぼなくなるため、切除しても大きな問題はありません。
必要に応じて、対応病院をご紹介します。
4)溶連菌による扁桃炎を発症しましたが、出席停止はいつまでですか?
溶連菌感染症は、学校保健安全法の出席停止となる疾患として、明確には定められていません。
抗生物質による治療開始後、24時間程度で感染力はなくなるので、全身状態が良ければ、1~2日後には登校可能です。
ただし、医師の指示に従い、処方された抗生物質は、最後まで飲み切ることが重要です。
5)喉が痛くて、固形物が食べられない場合、どうすればよいでしょうか?
お粥・プリン・アイスクリームなど喉越しの良いものや、機能性食品のゼリーなどで手軽に栄養補給すると良いでしょう。
また、脱水症状にならないように、お茶、ほうじ茶、ゆず茶や豆乳などで、こまめに水分を摂るようにしましょう。